avarokitei84のblog

*はじめに。 このブログは、ヤフー・ブログから移行したものです。当初は、釈尊(お釈迦様・ゴータマブッダ)と宮沢賢治を探究してましたが、ある時点で、両者と距離をおくことにしました。距離を置くとはどういうことかと言いますと、探究の対象を信仰しないということです。西暦2020年となった今でも、生存についても宇宙についても確かな答えは見つかっていません。解脱・涅槃も本当の幸せも、完全な答えではありません。沢山の天才が示してくれた色々な生き方の中の一つだと思います。例えば、日本は絶対戦争しないで平和を維持出来るとおもいますか?実態は、戦争する可能性のもとに核兵器で事実上の武装をしています。釈尊の教えを達成したり絶対帰依していれば、戦争が始まっても傍観しているだけです。実際、中世インドでイスラム軍団が侵攻してきたとき、仏教徒の多くは武力での応戦はしなかったそうです(イスラム側の記録)。それも一つの生き方です。私は、武装した平和主義ですから、同じ民族が殺戮や圧政(現にアジアの大国がやっている)に踏みにじられるのは見過ごせない。また、こうしてこういうブログを書いているのは、信仰を持っていない証拠です。

お話:シンジケートとアヌクタッチ

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http://jp.youtube.com/watch?v=2OUaFY6asxU

http://jp.youtube.com/watch?v=-9S_PLadqgU&feature=related(ミームの受け渡し。夢に生きる)

氾教授は、話し終わってゼミの受講生を見渡した。

「先生!」
「何だね、珍君。」
「先生。僕は狩猟採集民族も農耕民族も牧畜民族も結局必要な資源が枯渇すれば同じ行動をとらざるを得ないと思います。これは生物の宿命のようなものではないでしょうか?」
「確かに、羊は草を根こそぎ食べてしまうといって牛の放牧民が非難しているが、牛だって結局餌となる植物が少なくなれば草を根こそぎ食べてしまうことは周知の事実といえるね。」
「有り難うございます、先生。ですから僕は今現在世界を巻き込んで進行中の三極化現象を食い止めるにはもっと根源的な発想の転換が必要な気がするのです。」
「そうだね。僕も君の意見には同感だよ。我々研究者は、そういう問題を見つけ出し、理論を組み立て、世間に提言する。その提言を実現させるのは実業界であり、政界であり、最悪の場合は軍部が実行することもあった。かつては宗教界もそういう力を発揮したものだ。我々は理論を組み立て、提言を世に問うことが任務だよ。」
「僕たちはそれほど無力なんでしょうか?」
「いや、君。悲観するには及ばんよ。実業界にせよ、政界にせよ、軍部にせよ、宗教界にせよ、君、人材がいなければただの木偶の坊の集団に成り果て衰滅する他ない。いまだに人間は有限の時間しか生きられんのだよ。常に若くて有能な人材を補給していかなければならんのだよ。その人材はどこにあるのかね。」
「勿論、大学です。」
「そうだ。君たちが次世代の世界を動かすメンバーになるんだよ。それを忘れてはいかんね。」

「氾教授~、待ってくださぁい。」
珍が教授を追いかけて息を切らせて走ってきた。
「先生~。僕がご馳走しますから一緒にお食事してくださぁい。」
珍が走りながら叫んでいる。
氾教授は立ち止まって珍が追いつくのを待った。
教授は息せきって来る珍を愛でるように細い目をもっと細くしてニコニコしていた。

「珍君、君は父君からお小遣いを貰っておらんのかね。何時見ても薄汚れた同じ服を着ておるね。」
教授は呆れ顔で珍の着ている粗末な服を顎でしゃくって指した。
「先生。先生はいつもおっしゃっておられるではありませんか、人は精神こそ大切にしなければいかん。外見ではないってね。」
コーヒーを啜りながら珍が噛み付いた。
「それは珍君、程というものもあるものだよ。君のは、ひどすぎる。他人に不快感を与えるようなのは高い志の所有者とは言えんよ。」
「先生。お言葉を返して申し訳ありませんが、僕は三着の服を順に洗っていつも清潔にして着ています。そりゃ、今時つぎはぎの服なんか着ている奴はいませんが、僕はこれでいいんです。」
「君ねぇ、この食事代だけでも、結構さっぱりした洋服が買えるんじゃないのかね。」
「そうですね。」
珍がややむくれ気味になってしまいました。
教授は、にやにやしてそういう珍を目を細めて眺めていました。
「先生。又僕をからかって楽しんでおられるんでしょう。そういうのはもう止めてください。」
氾教授は、香りのややきついジャスミン茶の香りを堪能しながらうまそうに啜って、珍の抗議を受け流していた。
珍はしょうがないので食べるほうに集中することにした。
珍はどんな食事もうまそうにがつがつ食べた。
教授はどうにもそういう珍が理解しかねていた。
珍の父親は地方財閥で、教授も相当な資金援助を受けていた。
週に何度か珍が教授を食事に誘い、いつもこういう風に教授にからかわれていた。
「君、君が女性と一緒のところ見たことないね。まさか女性に興味がないんじゃなかろうね。」
「先生、それってどういう意味ですか? 僕が同性愛者だとでも言いたいのですか?」
なんて調子です。

「どうかね、この雰囲気。わくわくするねぇ。なんとも興奮するじゃぁないかね。」
氾教授はほんとに興奮している様子だった。
珍君も、実は、教授よりも興奮していた。
だが、珍君はそういう内面を決して表に出さないので、教授は気づかなかった。

公演開始までまだ間があるからと言って、教授は珍君を連れて楽屋に行った。

教授は、舞踊団一行の代表者らしい人物と話しこんだ後珍君を手招きした。
「君、踊り子を紹介するからこっちへ来なさい。」
そう言って珍君を奥へ連れて行った。

大きな鏡の前で踊り子らしき女性たちが衣装をつけたり、顔を作ったりしていた。

珍君はそういう女性たちを見ないようにそっぽを向いていた。

「おい、珍君。紹介しよう。こちらはフラメンコのバイレで、ラウラさんだ。ミス・ラウラ、こちらが昨日話した珍君だ。ミス・ラウラ、珍君はスペイン語は全く話せんので英語で頼むよ。」
教授はそう英語で言って二人を引き合わせた。

いささか形式的な嫌いがあるが、珍君はミス・ラウラにキチンと挨拶した。
ミス・ラウラは、そんな珍君の堅苦しい様子をニコニコしながら見ていて、それから、にこやかに挨拶を返した。
ミス・ラウラは、珍君の予想を裏切って、まるで田舎娘のような質素で静かな雰囲気の女性だった。
珍君ははなはだ戸惑った。
だが、傍から興味深げに二人を見ていた教授からすれば、そういう珍君はいつもの珍君だったようだ。

二人が挨拶を済ますと、今度はもうすぐ開演だからとか言いながら教授は珍君を促してさっさと楽屋を出てきた。
珍君が後ろ髪を引かれるように振り返るとラウラが手をひらひらさせて見送っていた。

「どうかね。ラウラ君。なかなか魅力的な女性だろう。まだ若いんだそうだよ。若手のホープってとこかな。僕も今日始めて彼女のバイレを見るんで実に楽しみだよ。」
「先生、何ですか、バイレというのは?」
「フラメンコの舞踊のことだよ。それより、どうかね。彼女なかなか魅力的じゃぁないかね。」
「女性としてですか?」
「いやそういうことじゃないんだよ。よしよし。まず、公演を見てからにしよう。」

珍君もフラメンコの名前ぐらいは知っていた。
TVで舞台を見たこともあった。
その舞台はやや観光客目当ての舞台だった。
お酒を飲みながら踊りを見る観光客のざわざわした雰囲気や、踊り子の仕草が珍君にはなじめなかった。

珍君は、ある理由から特に感情を剥き出しにしてひたすら愛だけを歌うギラギラした雰囲気が嫌いだった。
それどころか、歌唱や楽曲演奏すらも積極的に求めようとして来なかった。

しかし、皮肉にも、珍君のその抑制とは裏腹に、彼は音に敏感だった。
TVなどで視聴したフラメンコは、平凡な音響環境にもかかわらず、珍君には深く鋭く響いた。
思い出そうにもあまりに遠い祖先の記憶なので、ギターの音色の中にしか感じ取れない、懐かしい音として響いてきたのだ。

珍君は、こういう風に突然ある音楽に惹かれ、まるで異性に夢中になる様に熱中し、ある時又、パタッと興味を失うということが何回もあった。

今日教授に連れられてフラメンコを見に来たのも、本当は、彼が心の奥で望んでいたからかもしれなかった。

だから、楽屋に近づいただけで内心が踊った。
わくわくしていたのだ。

遠い客席のざわめき、楽屋の奥からもれてくるフラメンコギターの音色、行き交う舞踊団の人々。
観光客目当てのきわどい踊りや歌とはおよそ縁遠いミス・ラウラの静かな印象とスペイン系には珍しい青い瞳に、珍君は心惹かれた。
珍君は頭の中で勝手に舞台の幕を上げてしまった。
ミス・ラウラは抑えた激情とさすらいの悲哀がないまぜになったギターの音色や手拍子にのって、舞を舞い始めた。
無頓着な教授が、そんな珍君に全く気づかず、さっさと楽屋から連れ出さなかったら、珍君は何時までもぼおっとラウラの前に突っ立っていて舞踊団のみんなに迷惑をかけてしまっただろう。

客席の華やいだざわめきが池に落とされた木の実の波紋のように数箇所から周りに広がって行きやがて話し声はほとんど聞こえなくなった。
観客たちは咳払いをしたり居住まいを正したり、髪の毛に手をやったりドレスの襞を整えたりして舞台の幕が上がるのを待った。

幕の向うから、音を合わせる楽器の音色が聞こえてくる。

ゆっくりと幕が上がった。
観客は拍手で舞踊団を迎えた。
ギターラたちはもう舞台の奥で小さな音で弦の調子を合わせ続けていた。
一段と拍手が大きくなると、ギターを手にした舞踊団の代表とミス・ラウラたち踊り子が袖から現われた。
珍君は教授の連れということで舞台のまん前の貴賓席に居たので、本当に目の前にミス・ラウラが立った。
ミス・ラウラはすぐ珍君に気づき目を合わせてほほえんだ。
ギターラたちも椅子から立って全員で客席にお辞儀をした。

トマトレッドに引き立つ舞台衣装をまとった踊り子たちは、洗濯物を入れた大きなバスケットに手を置いて静かにギターを待った。

 ・・・ではしばらく、教授と珍君と一緒にミス・ラウラの舞台を観ていただきたい。

(恐れ入りますが、したのURLをクリックして下さい。)
http://jp.youtube.com/watch?v=2OUaFY6asxU

4.晩餐会

スペイン舞踊団を歓迎する晩餐会は、地区迎賓館で行なわれた。

盛りを過ぎた夏の初夜、夕風はまだ肌に心地よい。
空がそうとう高くなったため、月は夏よりずっと高みに居る。

青い月の光を愛でるべく、オープンテラスや広い庭園の照明は慎ましく灯されていた。

大広間では歓迎セレモニーが続いている。
珍君は、一人テラスに出て夕風にあたり会場の熱気を冷ましていた。

舞踊や音楽を愛好する文化人たちの歓迎挨拶は深みのある心のこもったものだったが、やはり、挨拶は儀礼の一種だ。
それに儀礼的な舞台評はあまり聞きたくなかった。

今宵、珍君を魅惑した舞台の幕は珍君の中ではまだ上がったままだった。
他人に邪魔されずに楽しんでいたかった。

庭園では男女の給仕たちが忙しく晩餐会の準備をしていた。

会場で一段大きな拍手が起った。
拍手が鳴りやむと、ざわめきがテラスへ移動してきた。
舞踊団の団員と文化人たちが晩餐会場に移動し始めたようだ。

地区迎賓館は、湖岸に近い小高い丘の上にある。
テラスを巡ってゆくと、湖を見晴るかす場所がしつらえてある。
湖上には、行く夏に名残を惜しんで、市民たちが漕ぎ出した小船が何艘も淡いランタンを灯して漂っていた。

煌々と照る月を深い空の中に見上げ、湖上の淡いランタンを見晴るかして珍君は嘆息した。

「おい君。こんなとこに居たのかね。ほら、ミス・ラウラが待っているんだ。はやく来たまえ。」
教授の声がいきなり後から催促してきた。
「それにしても君、今夜もそのつぎはぎの服とはねぇ。いやはや。」
晩餐会までには着替えていると思っていたらしい。
だが、振り返ると、教授はさっさと庭園の方へ早足に向かっていた。

晩餐会なので、立ち席ではなかった。
椅子にかけるとじっとしていなければならないので窮屈で嫌だった。
珍君はめったにこういう改まった席に出なかった。

こういう席は、話題がだいたい決まっていて、生憎珍君はそういう話題に興味がなかった。
普段なら、晩餐会は失礼していたのだが、今夜はちょっと興味があって居残っていた。

スピーチはセレモニーで済ませたから、晩餐会は席ごとに和やかな会話が弾んでいた。

「ミス・ラウラ。前に話したように、この男は。えー、珍君はだね。未だにガールフレンドが居ないようなんだよ。どうかねぇ、君、珍君に興味はないかねぇ。」

教授のテーブルには、団長とミス・ラウラが坐っていた。
団長はさっきから隣の高名な中国舞踊家と談笑していた。
ミス・ラウラは、唐突な教授の言葉には微笑みを返しただけだった。

教授はこれで二人の仲は取り持ったのだからもういいだろうというように団長たちの話に割り込んでいってしまった。

「ミス・ラウラ。今日は素晴らしい踊りを見せていただいて感謝しています。今日の舞台は僕が知っていたフラメンコとずいぶん違いました。フラメンコにもいろいろあるんですね。」
「はい。スペインに来られたことがあるのですね。」
「あ、いや。スペインで見たんではないのです。ネットで見たことがあるのです。」
「珍。ほんとにガールフレンド居ないのですか。」
「はい! ミス・ラウラ...」
「珍。ラウラでいいですよ。」
「ありがとう、ラウラ。それにしても皆さんの情熱には感じ入りましたねぇ。」
「情熱...。そうですね。私はとても踊りが好きです。小さい時からずっと踊ってきました。」
「今日の舞台の、そのぅ、あのトマトレッドの衣装で踊ったのは、作業歌の踊りですよね。」
「創作舞踊です。小さな物語なんですよ。で、珍。ガールフレンドは...?」

珍君、改めてラウラの青いひとみに見入った。
月の光も青く、湖上の淡いランタンも銀色のさざなみに映え...

「居ません。これからも居ません、多分。」
「そ。はい、これ。」

ラウラが小さなカードを珍君の前に置いた。
珍君が手にとるとラウラの名刺だった。

「珍のアドレスとナンバーは教授から貰いました。お友達になっていただけますね。」
「ラウラ、気を悪くしないで聞いてくださいね。もしかして、教授からしつこく頼まれましたか、このことを。」
「はい。珍はそれじゃぁ、お嫌ですか。」
「いや、そういうことじゃないんですよ。ラウラはご存じないでしょうが、教授は独身なんですよ、ずっと。自分は自分流にやっているのに、僕には世間並みの常識を押し付けるんです。」
「不満なんですね。」
「ラウラ。中国での公演は幾つもあるんですか。」
「珍。あなたは誰に対してもそういう風に話題をすぐに逸らすのですか。」
「済みません。そうです。えゝ、そういう教授の姿勢はね。」
「面白い。団長みたいね。」
「あ、そうなんですか。でも、団長は心からギターラに打ち込んでおられますね。」
「叔父なんです。私たちのメンバーは全員親戚同士なんです。」
「ほおぉ。今もそうなんですね。ネットで調べてる時に見ましたよ。親族で組んでいるのって。」
「珍。今度はあなたのことを話してください。教授がおっしゃっていたアヌクタッチのことを。」
「教授、そんなことまであなたにお話ししたのですか。」
「世界を回っていると、国同士に貧富の差があるのがよく分かります。国だけじゃないんです。どの国でも人々の間に貧富の差があります。とても悲しい。」

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