ゲアリー・マーカス「心を生みだす遺伝子」(岩波現代文庫 2010年刊)第1章 冒頭冒頭部分の引用です。



     *引用開始*


DNAの構造を発見した一人であるフランシス・クリックは、最近、自著「驚くべき仮説(邦題は「DNAに魂はあるか」)の中で、心の活動の基盤は脳にあると述べている。曰く「自分自身を知るためには、神経細胞がどのように振舞い、それらがどのように関わり合っているかを理解しなければならない」。
心は脳の活動によりもたらされると考えたクリックは、確かに正しい。しかしながら、ソフトウェア・エンジニアの息子としてニ〇世紀後半に成長し、ニューロンの生物物理を学んだことのある者として、私はこれが驚くべきこととは思わない。私の世代の多くにとって、ヒトの思考が脳の産物であるということは明らかで(当たり前でさえ)ある。マサチューセッツ工科大学(MIT)の認知科学者スティーブン・ピンカー(現ハーバード大学)の弁によれば、「心とは脳が為すものである」 

現代社会は、脳が心に与える影響を示す科学的証拠に満ちあふれている。プロザックは脳を標的としてヒトの気分に影響を与える。卒中による脳損傷でヒトの行動が変わる。そしてさまざまな認知機能を働かせる際には脳の異なる部分が活動する。たとえば、音楽を聴くときは右脳が活動し、言語を聞くときは左脳が活動し、恐怖におびえたときは扁桃体が、オーガズムの際は右の前頭葉が活動するのである。
今やたいていの人は心の源は脳にあるという事実を受け入れているが、脳の元になっているのは遺伝子であるという第二の事実については、心地よく思わない人が多い。ちょうど五〇年前にクリックがその解明に関わった分子は、科学や医学や法律にさえも多大な影響を与えた 
しかし、心についての学説にはほとんど影響を与えていない。



     *引用終了*























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